11/12/2015

もう一人のウィリアム.モリス

ウィリアム.モリスといえば大抵の人は壁紙やカーテンのデザイナーとして、また詩人、社会主義運動などで有名なあのモリスを思い浮かべることでしょう。

でも、実はもうひとりとても大切なウィリアム.モリスがいます。モリス.マイナーなどの車の製造で、また慈善家でも有名なウィリアム.モリス(ナフィールド子爵)です。

この二人は名前こそ同じであっても、その生涯は正反対の部分が多かったのです。前者のほう(以後‘モリス’とします)は、裕福な家庭に生まれ、オックスフォード大学のエクセタ.カレッジで学んだ後友人たちとともにアーツ&クラフツ運動を推進、壁紙などのデザインをしていきます。アーツ&クラフツ運動はあくまで「機械で大量生産するのではなく、中世の職人の手仕事」を推し進めていこうという運動です。

一方後者のモリスは(以後‘ナフィールド’とします)、時代は少し後になりますが貧乏ではないにせよ特別裕福ではない中産階級の家に生まれ、医者になることを望んでいましたがそれも叶わず14歳で学校を終えた後はオックスフォードの町にあった自転車店で働きます。一年後に昇給を申し出て断られたために退職。両親の家の裏で自転車修理のビジネスを始めます。その後、部品を他から手に入れてテイラーメイドの自転車の製作を始めますがここから彼の機械工、実業家としての才能が芽を出し始めます。

1901年、24歳の時に自分の店を構えてからは更にビジネスは成功し、8年後には自動車の販売、修理も始めます。こうして1912年にはWRM モリス会社が設立されます。(WRM とはウィリアム.リチャード.モリスの頭文字)

その後、アメリカのヘンリー.フォードが開発した車の大量生産がイギリスではナフィールドによって始められることになります。テイラーメイドと違って安価な車はどんどん売れ、1923年には一年に2万台を製造するまでになりました。1920年代にはアメリカのジェネラル.モーターズから当時の金額で1100万ポンドの買収の誘いがきたのを断り、モリスの自動車ビジネスは第二次大戦中には飛行機の製造をも始めるに至ります。

このころから、生涯の興味となった慈善活動が始まります。その一生においてナフィールドは現在の金額にして7億ポンド(1400億円)を寄付したり、オックスフォード大学にナフィールドカレッジを創ったり、多分20世紀のイギリスにおいてその額は最高額だったと思います。

因みに‘ナフィールド’とは、彼が住んでいる村の名前(Naffield)で、爵位を授かる際に使ったのでした。

手仕事を守りつづけたために、ビジネス家としては成功しなかった芸術家としてのウィリアム.モリスは、妻との関係も複雑で、そのためにもっと複雑な人生を送りましたが、その思想は現在でもずっとイギリス人の心に受け継がれいます。一方、大量生産に徹して巨額の富を作り、それを社会に還元して多くの人を助けたウィリアム.モリスは、子供には恵まれませんでしたが生涯最愛の妻と暮らし、子爵の称号も得て社会的にも満ち足りた人生を送ったようです。同じ名でも社会に及ぼした影響はそれぞれ違います。

さて、前置きが長くなりましたが、今回はナフィールド子爵が住んだナフィールド.プレイスをご紹介しましょう。残念ながら冬場は閉館で、今の時期は入場はできませんが来春機会があったら是非訪れてみてください。

超大金持ちであったナフィールド子爵にしては、控えめな家ナフィールド.プレイスは1914年に建てられたもの。ナフィールド子爵が夫人と越してきたのは1933年のことです。それ以後亡くなる1963年までの40年の間、夫妻の住居となります。






招かれたゲストのうち、男性のみが食後使ったビリヤードルームの一角には寛ぎの空間があります。テーブルの上に置かれた新聞や、壁に掛けられた額縁には「エドワード8世退位」や「ナフィールド子爵誘拐未遂」といった当時のビッグニュースを告げる記事が。


 
 
 
 
 
 

マントルピースに飾られているナフィールド子爵夫妻の写真。
 
 
 

 
招かれたゲストが寛いだ居間。クラシカルな家具はほとんど全てが最高級の
リプロダクションです。
 
 
 
 
 
 
夫人はケーキが好物で、金曜午後にオックスフォードに行くのが習慣だったとか。その時はケーキを持ち帰るのが常でした。

 
 

 
 
ダイニングルームのテーブルは16世紀の修道院などで使われたオーク材食堂のテーブルと同じものをオックスフォードの家具屋に作らせたものです。タペストリーで作られた椅子も同様ですが、デザインはハロッズのものとか。

 
 
 

 
スコッチテリアが好きだった夫妻は時には3匹飼っていたこともあったようです。
 

 
 
 
 

 
夫人のベッドルームは、当時とほとんど変わっていません。

 
 

 
 
ワークショップのようなこの箪笥は実はナフィールド子爵の寝室の戸だなです。眠られない夜はこれらの道具を使って新しい車や飛行機のことを考えていたのでしょう。

 
 

 
 
夫人が愛用した1946年のウォルズリーがガレージにあります。

 
 
 
 



ロンドンとオックスフォードの中間に近いヘンリー.オン.テムズから10キロのところにあるナフィールド.プレイスは冬場は閉館していますが、来年は2月29日から訪れることができます。

http://www.nationaltrust.org.uk/nuffield-place