「世界で一番有名な時計」と言われるほど人々に親しまれている‘ビッグベン’。ところが「ビッグベンって一体何?」と聞かれればイギリス人でも答えに困ってしまいます。国会議事堂の事?議事堂の建物の一部である塔の名前?上に付いている時計の名前?
正確には‘Big Ben’とは、塔(エリザベス.タワー)の中に入っている鐘の名前です。公式名はThe Great Bellですが、誰もそう呼びません。ニックネームの‘ビッグベン’はこの鐘が作られた時の工事委員であったベンジャミン.ホールという体がとても大きかった人に由来すると言われます。ですから「大きなベン」なのです。もっとも、今では‘ビッグベン’イコール‘時計’と言っても間違いとは見做されないようです。
1859年に完成してから今まで、毎時毎に時報を告げるビッグベンの重さはなんと13,7トンもあります。それを打つハンマーでさえ200キロ。
15分ごとに鳴るチャイムは‘ウェストミンスターチャイム’と呼ばれています。♪ キンコンカンコーン~カンコンキンコーン ♪ という学校で使われるあのチャイムです。でもこれはビッグベンが鳴っているのではありません。ビッグベンの鐘は一時間ごとに、そしてウェストミンスターチャイムが鳴り終わってしばらくすると聞こえます。この鐘の音を聞くたびに思い出すのは日本の除夜の鐘です。それは‘ゴーン、ゴーン’とお腹に沁みる低い音です。昔、霧の濃かった時代のロンドンでこの鐘を聴いたらきっと、感激したことでしょうね。そういう光景にはぴったりの鐘の音です。最近は風の向きや、議事堂前の広場の交通の音であまりはっきり聞こえないこともありますが、それでも近くに行けば大丈夫。
私がガイドする際は、この鐘を聴くために時間を合わせることはめったにしませんが、たまたま10分くらい前にここを通る場合は、なるべくこの鐘の音をお客様に聴いていただくようにしています。
エリザベス.タワーの四方についている時計の部分も実は大変大きなもので、一枚が312枚のガラスで出来ていて、分針の長さは4,2メートル、重さは100キロです。時針に至っては300キロもあるのですから、正確な間隔で動くことすら奇跡です。よく落ちてこないなーといつも思います。
そして大変なのは、イギリスはサマータイムになったりグリニッジ標準時になったり毎年2回時間がずれること。それも時間が変わる日は毎年違いますから、人間の手が必要なのです。この日は分刻みで準備、作業をしなければいけないようです。これを担当している人には大きな勲章を授けたいと思います!なんでもコンピューターに頼った世の中になってしまいました。コンピューターがダウンして飛行機の発着に影響があり、そのためにM4の高速道路が渋滞したこともあります。ホテルにチェックインする際に「コンピューターがダウンしていて、チェックインができません。しばらく待ってください。」と言われたことも一度や二度ではありません。
そんな時代ですが、世界一有名な時を告げるビッグベン(誤差は1秒以内だそうです)が鳴る時間を決める操作はいまだに人間の手でしなくてはいけません。週に3回ねじを巻いたり、振り子にコインを載せてその速度を調節したりです。
国会議事堂のある建物はウェストミンスター宮殿と呼ばれます。ここは長い間イギリスの民主主義議会制度の中心であったところです。ユネスコの世界遺産にも登録されている建物で、ヴィクトリアンゴシック建築の部分がほとんどですが、11世紀に建てられた部分(ウェストミンスター.ホール)も残っています。今年はマグナカルタ(大憲章)がジョン王によって調印されてから800年の年ですから国中で色々な展示会やイベントが行われています。
因みにビッグベンをいつもみているのがウィンストン.チャーチルの銅像です。
今年はチャーチルが亡くなってから50年の年に当たるので、この方も特別出版物を含め多数の商品が店頭に飾られていますし、チャーチルに関係のある建物ではイベントも行われています。