8/23/2015

パブリック.フットパスとナローボート

ウォーキングホリデーでBBに泊まった時のこと。朝食の場所で観光で来ていたアメリカ人夫妻と一緒になりました。「今日の予定は?」と聞かれ、「パブリック.フットパスを歩きます。」と応えました。当然、「パブリックフットパスって?」という質問です。

「パブリック.フットパスとは例えそこが私有地であっても、一般の人が自由に歩けるという道です。」

「私有地であっても?そんなことあり得ないじゃないですか?不法侵入で訴えられないの?」

「イギリスではあり得るのです。パブリック.フットパスに指定されているところなら歩いてもいいんですよ。」

何度説明しても彼らには信じてもらえませんでした。アメリカでそんなことをしたら不法侵入でピストルでズドン!とやられるかも?

最後に彼らの言ったことは、「一旦お金を出して土地を買った人の権利の方が、関係のない人たちの権利より守らなければいけないものでしょう。」

イギリスの土地はとてつもなく広い土地を貴族や王室など特定の少数の人が持っている場合が多いのです。そこを通らなければ回り道をして随分時間がかかります。イギリス人は歩く権利は、人間に許された最低限の権利であると信じていますから、土地所有者との間に妥協策としてできたのがパブリック.フットパスというわけです。

これと似たようなものに運河があります。歩くこととはちょっと違いますが移動の権利、レジャーのための特権と言えば共通点があるかも?産業革命の時に、工場で使う燃料や、生産された商品を運ぶのに馬を使っていたのでは大量に運べませんし、運搬時に壊れることもあります。ウェッジウッドの陶器などは、運河を使ってナローボートで運ぶことにより、破損が随分防げたために商品の値段も安くなりました。また、マンチェスターの石炭の価格も同じ理由で75%も安くなりました。







そのうちに列車が通るようになり、商品の運搬用としての運河はすたれていきます。ところが今度はレジャー用にナローボートを使いだし、ボランティアの人たちが運河の修理をしてナローボートを保存しました。そのうちに、公的機関も「うん?これはいいぞ。レジャーにナローボートを使えば地方の観光産業、飲食産業が栄える。」と、運河の保存に乗り出したというわけです。

そして今、ナローボートホリデーはイギリスにはなくてはならない産業のひとつになっています。

 
 
水門を利用して段差のある運河を進みます。







イギリス内を運河、川を利用して進める距離は何と3500キロ。パブリックフットパスに至っては地球を何周もする長さと言われています。国は小さくてもイギリス人が移動できる範囲は広いっ!







今までにナローボートを利用したお客様に何度かお会いしました。半分くらいの方が「退屈でどうしようもなかった。」とおっしゃいます。でも残りの半分の方はとても感動していらっしゃいました。ナローボートの最高時速は4マイル、6,4キロです。でもたいがいは5キロ以内で動いている気がします。ロンドンからバーミンガムまでは車で2時間。それがナローボートですと12日間で行けたと言えば、「随分スピードを出しましたね。」ということになります。

昔友人にMという、‘ナローボートマニアック’と呼ばれるほどの人がいました。運河に沈んでいるナローボートを引き上げて自分で修理して、リージェント公園の運河に置いて、時々友人を乗せてテムズ川上流の遊覧に誘っていました。時には、私たちのためにケータリングを入れてくれてナローボートの上でパーティもしてくれました。私にとっては初めてのテムズ川遊覧と言うこともあり、最高に贅沢な時を過ごしたことを覚えています。その時、初めてMの指導のもとでナローボートの舵をとる経験をしました。

いつも変わる景色、自分の家のようなくつろぎ、宿泊費がかからないという合理性をもったナローボートの旅はイギリスでしか味わえない経験です。そんな旅をする時にこそ、イギリス人が大切にしているものが何か、またその価値というものが理解できるのでしょう。

日本の方が案内されているナローボートの経験は下記のサイトをご覧ください。

http://www.narrowboatguide.co.uk/