5/26/2015

ドライストーン.ウォールを作る!

「ああ~イギリス~」と思う風景のひとつが田園です。そしてその田園をパッチワークの縫い目のように線を描いているのがドライ.ストーン.ウォール。しっくいやセメントなど使わずに作るので‘ドライ’といいます。それは単に平地だけではなく、湖水地方などに行けば山のてっぺんに向かって延々と続いています。全長なんと20万キロ。東京から下関まで1500キロくらいということなので、その130倍です。日本よりも小さな国でこの長さですから、ドライストーン.ウォールがイギリスの風景を作っているといっても言い過ぎではないでしょう。

それらは2枚の石塀の間に小石を入れて頑丈に作られています。そして下に行くほど厚さが増してきていますし、傾斜の部分はそれなりに積み方を変えています。正に芸術そのものといったところ。




イギリスではケルトの時代からこの石造りの塀が存在していたそうですが、14,15世紀から18世紀までは盛んにあちこちで作られていたようです。主な目的は所有する土地を囲うため(囲い込み)で、現存しているものの中には400年前に造られたものもあります。高さは1,4メートルから1,6メートル(羊が飛び越えられない高さ)。昔は土地を耕しているうちに出てきた石を使って、皆で助け合いながら作っていました。そのうちに職人が出て、最近では石切り場で採石された石が使われます。でも近年はプロの職人も少なくなっていました。

ところが、最近このドライストーン.ウォールが都会で注目されてきたのです。何故でしょう?それはガーデン用の需要が増えてきたためです。そこで使われるのはコッツウォルドストーン。あの蜂蜜色の石がガーデンにはとてもいい感じで、植物を引き立てます。しかも金づちで簡単に割れるので適当な大きさ、形にもできます。

私がドライストーン.ウォールに興味を持ったのは、石と石の隙間に動物や昆虫が住んでいて、それが自然を守るうえで大切とおしえられた時からですのでもうだいぶ前になります。一度は凝ってしまって、沢山本も読みました。「昔は腕の良い職人でも一日に2メートルもできれば上等だった。」なんて聞いた時は「本当かな?ただ石を積めばいいだけなのに。」なんて思ったものでした。

それで今回同僚からの情報で、ロンドンでドライストーン.ウォールの作り方をおしえてくれる場所があると聞いて行ってきました。向かったのは英国一の高層階ビル ‘シャード’ の近くにあるクロスボーンズ.ガーデンです。(Crossbones)





ここはその昔、非常に貧乏だった人たちやその子供たち、売春婦など世間から忘れられた人たちおよそ15000人が埋葬されているところです。最近まで閉鎖されていましたが、ここをメモリアルガーデンにしようとボランティアが集まって、今素晴らしいガーデンが造られています。塀の一面は、埋葬されている人たちのために、また近年に亡くなった愛する人のためにと祈りをこめて結ばれたリボンやメッセージで埋め尽くされています。




 
 
1728年12月26日に亡くなった人のために。
 
 
 


そこで、埋葬されている人たちの遺骨をじゃましないようにとドライストーン.ウォールを使って、高い位置に花壇を築くことが決りました。まずは先生から手ほどきを。先生は8歳の時からドライストーン.ウォールを作っているというジョン先生。まるでご飯を食べるかのように自然に石を積んでいきます。





「OK!出来る出来る。先生、まかせてください!」と皆自身たっぷり。でもいざ始めてみると....。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
まず適当な形の石を見つけます。ちょっとでっぱったりした部分があれば金づちで切り落とすのですが.....「ここの部分だけ」と思ってた叩いていたら真っ二つに割れてしまったのがほとんど。
 
 
 
 
 
 
「一日に2メートル」??? とんでもない。私は2時間でやっと5個の石を積みました。難しい~~~。でも最後にはちゃんとお免状をいただきました。ただ単に参加しただけのお免状ですが、なんとなくうれしい。
 
 
 
 
今度田舎に行ったら、ドライストーン.ウォールをもっと違った目で見ることでしょう。何キロも続くこの石垣を作った人の苦労を思いながら。ところどころ壊れた石垣を見て「これを作った職人は腕があまり良くなかったようですねー。」などとは決して言わないことにします。