12/02/2019

アーサー王子

皇太子アーサーに興味のあるお客様をラドロウにご案内しました。ラドロウは、シュロプシャー州にある人口1万人強のマーケットタウンです。ハーフティンバーの建物を含む多くが保存建築物の対象になっています。(listed buildings)





歴史にその名を残す人物は、何かを成し遂げて歴史を作った人たちです。でもアーサーは、その死によってイギリスの歴史を変えました。




アーサーは、チューダー王朝の創立者ヘンリー7世とエリザベス・オヴ・ヨークの長男で、1486年にウィンチェスターで生まれました。その名はイギリスの伝説の王であるキング・アーサーからつけられたのですが、それはいずれ新しい王朝を(ヘンリー7世とエリザベス・オヴ・ヨークの結婚でやっと薔薇戦争が事実上終わり、新しいチューダー王朝が築かれる)引き継ぐに相応しいプリンスの誕生として、王や国民の大きな期待や希望で迎えられたのでした。

この王朝を強化するため、またフランスに相対する作戦のためにヘンリー7世は4歳にもなっていないアーサーと、カソリック国スペインのアラゴン王国のフェルディナンド2世の末娘(母はカスティール王国のイザベラ一世)との婚約協定を結びます(フェルディナンドとイザベラの結婚によりアラゴン王国とカスティール王国は現在のスペインを形成)。この娘が、アーサーの死後弟ヘンリーと結婚することになるキャサリン・オヴ・アラゴンです。キャサリンとアーサーはラテン語で文通し合い、キャサリンは1501年にイギリスにやっ来て結婚。当時アーサーとキャサリンはともに15歳でした。二人はラドロウ城で新婚生活を始めます。

ラドロウ城は11世紀に建てられたお城です。今は廃墟になっていますが、イングランドで最初に建てられた石造りのお城のひとつです。(当時のお城は小さな丘の上に木で建てられたものが多かった)



アーサーに関しては、生まれつき病弱であったという説もありますが実はそうではなく、結婚するまではいたって健康で、頭脳明晰、ハンサムであったという説もあります。当時の結婚は、特にヨーロッパの王侯貴族の場合は政略結婚がほとんどでした。アーサーの場合もそうですが、本人たちは幸せだったようです。ところが結婚後半年以内に二人とも発汗症(sweating sickness)という重い感染病にかかってしまいます。キャサリンは回復したものの、アーサーはラドロウで1502年に15歳の生涯を終えます。





右側の丸い建物は12世紀に建てられた聖メアリー・マグダレンのチャペル。









父ヘンリー7世としてはスペインとの同盟を是非とも続行したいという気持ちから(キャサリンの持参金を返したくなかったこともあったと思います)アーサーの弟でアーサーの死によって王位継承第一人者となったヘンリーとアーサーの未亡人キャサリンを結婚させることにします。その後の歴史は、ご承知の通りです。

キャサリンは、女の子を生みますが(後のメアリー女王)結婚16年目にして浮気相手のアン・ボリンとの結婚を望むヘンリーによって離婚されます。この時にローマ法王の許可が得られずにイングランドをカトリックから独立させ、国中のカトリック修道院の崩壊を行いその財産を没収します。その後、ヘンリーは4人のお妃を娶り、全部で3人の子を設けますがその全員が後に王位についています。1558年に最後に王座についたエリザベス女王は処女女王と呼ばれ、後継ぎを残さなかったためにチューダー王朝は途絶え、代わりにスコットランドのスチュアート王家がイングランドの王朝を築きます。(この時にスコットランドとイングランドの王家は合併、その約100年後1707年にイングランドとスコットランドが合併します。)

ということで、もしアーサーが早くに死ななかったら、彼がヘンリー7世亡き後に王座についていたら・・・・と思うと、アーサーの死は正に歴史を変えた出来事だったことが窺えます。そしてヘンリー8世は王座につくことなしに歴史から消えていったかもしれません。

因みにラドロウ城は、12歳でロンドン塔で殺されたと言われるエドワード5世と弟のヨーク公爵が、ロンドン塔に連れていかれる前に暮らしたところでもあります。

ついでにこの時代で、もうひとり「彼が死ななかったら・・・・」という人物がいます。それはアーサーとヘンリーの父、ヘンリー7世です。実はキャサリンの姉で絶世の美人と言われていたファナとの関係です。

妃であったエリザベス・オヴ・ヨークの死後、ファナの美しさに惹かれたヘンリー7世はファナとの結婚を考えます。ところがヘンリーは実行する前に他界。でも、もしこの二人が結婚していたら、ヘンリー8世がキャサリンと離婚することもなかったかもしれません。カトリックとしてのスペインと絶交状態になることは好まなかったでしょうし、ファナの潔癖な性格からして妹の離婚を支持したとも思えません。

ファナは絶世の美女の他、狂女として描かれる場合が多いのですが、それ以上に彼女の賢さ、そして夫への強い愛、信じることを曲げないなど惹かれる部分が多いです。

ラドロウ城で他界したアーサーの心臓が埋葬されたと言われるラドロウの聖ローレンス教会。




その死がもたらす歴史的影響を考える時、アーサーとその父であったヘンリー7世の死は歴史を変えた出来事だったことは間違いありません。