10/19/2015

ウェールズから。

今年2回目の、そして多分最後のウェールズでの仕事。今回は写真記者のWさんの取材のお供でした。まず仕事始めはスランゴスレン。ここには駅があるのですが、保存鉄道なので国内の普通路線とはつながっていません。そこで、まずロンドンから列車でレクサム(Wrexham)まで行き、そこから20分ほどの道をタクシーでスランゴスレンに向かいました。

人口5000人にも満たない小さな町は、この時期、特に朝、夕方はメインストリートでさえ歩く人をあまり見かけません。でも有名な音楽祭やアートフェスティヴァル他色々なお祭りもありますし、ここを拠点として運河を下ったり、ウォーキングをしたり、もちろん見どころも多いので観光でも大切な町です。






 
町の中心を流れるディー川のこの場所に、ある司教さんが石橋を築いたのは1345年のことですが、今の橋は1656年に改築されたものです。350年もの間、昔は馬車が、そして今は車が行きかうこの石橋は、近くにあるポントカサステ水路橋と同じくListed Building(保存されるべく公的に守られている物件)の中でも一番重要性の高いカテゴリーに(グレード1)登録されています。






スランゴスレンは1840年にはすでに観光地として人気がありましたが、ここに来るには馬車しかありませんでした。ロンドンからですと、とんでもない時間を要します。

そこで、ヴィクトリア時代に急激に発達した炭鉱、観光産業の波の乗って1860年代に石炭、観光客を運ぶ線として鉄道が開通し、下の写真の右に見える駅がオープンしました。ところがその100年後にはイギリス各地で行われた鉄道の縮小に伴い、スランゴスレンの駅も線路も撤去されてしまいました。

その後1972年にディーサイド保存鉄道協会が発足。完全に観光用の鉄道に変わり、現在全長15キロ強の線を保存列車が走っているというわけです。

www.llangollen-railway.co.uk



 
 
 
保存鉄道はイギリス中に沢山ありますが、それらの駅には当時の面影を残すオブジェ....まるでアガサ.クリスティのテレビドラマの中にいる気分です。
 
 







有名な水道橋ポントカサステ橋を渡るナローボートの運河遊覧は駅の近くにある船着き場から出発して、フロンカサステまで行くルートと、逆にフロンカサステからスランゴスレンまで戻るルートの二通りあります。どちらも2時間の旅です。水道橋をデザインした技師の名にちなんで‘トマス.テルフォード’と名付けられたナローボートに乗って、ディー渓谷の静かで美しい景色の中を時速5キロくらいの速度で進みます。

http://www.horsedrawnboats.co.uk/

1795年に工事が始まったスランゴレン運河は最初は運搬用として創られ、その後閉鎖、そして今は保存運河としてレジャー用に使われているという点ではスランゴスレン鉄道と全く同じ運命をたどってきました。

鉄道も運河もボランティアの協力がなければ運営は不可能です。ここでも「忙しい生活の中でも時間を作って趣味の世界を大切にする」というイギリス人気質が表れていますね。

www.canalrivertrust.org.uk

このボートの遊覧が特別なのは、1805年に造られたイギリスで一番長く(全長307m)、そして一番高い水路橋(38m)ポントカサステ水路橋を渡るから。(7月16日のブログをご覧ください)




乗っている人にとっては、森が下にあり、芝生のグラウンドでは子供たちがサッカーを楽しんでいるというなんとも不思議な光景です。



イギリス人の多くはナローボートでホリデーを楽しみます。ボートは借りることもでき、その場合は自分で操縦します。それはそんなに難しいことではないのですが、直線を行くだけではあまりにも平和で眠くなっちゃうかも?と思います。でも、右折したり左折したり、水門の開け閉めをしたり、Uターンしたりしていると操縦が楽しくなり、特に居眠り運転が防げます! 狭い運河では、対向してくるボートとぶつからないようにありきたりの力を振り絞ってロープで船を壁側に寄せることもあります。

でもまあ、ぶつかったとしてもガツンガツンして笑いながら「アレ、アレ....」と言うだけでしょうが。




時間に追われたホリデーはホリデーではないと考えるのが彼らです。ストレスゼロの時間。いいですねー。

この日、スランゴスレンを後にした私たちは一挙に南下して次は「イギリスで一番美しい庭園のあるお城」という評判のポーウィス城に向かいました。