2/02/2017

イギリスから傘が消えた!

私がこの国に来た頃はまだ金融街で山高帽をかぶり、ストライプのスーツを着て傘を持った英国紳士をたまに見かけました。 お天気が良くて雨は降りそうもないのに、それでも傘を持って歩いていました。「ロンドンの霧」同様、今ではそういう出で立ちの紳士にお目にかかることがなくなってしまいましたが。

さて、傘の英語‘umbrella’は実はラテン語の‘umbra’からきていて「小さな陰」という意味です。つまり傘はもともと「日よけ」として使われていたことがわかります。それが雨の多いイギリスでは雨よけに使われだしたことは当然の成り行きだったでしょう。でもそれも長い傘の歴史の中では(エジプト、ギリシャ、中国などでは紀元前からあった)ごく最近のことです。中世のイギリスでは雨の時は帽子や上着で濡れるのを防いでいました。傘は相当な贅沢品で、しかも18世紀までは女性だけ。男性には関係のないものだったようです。

ヨーロッパで初めて傘を使いだした男性はイギリス人でジョナス.ハンウェイ(1712~1786)と言われています。商人として外国の貿易に携わった後、晩年は慈善家としても知られるようになり、ウェストミンスター寺院には彼の記念碑もあるくらいの人でした。





「男のくせに」という冷たい目もなんのその。彼は女性的な傘を男性的に変え、どっしりした傘をどこに行くにも持ち歩いていました。その結果、逆に「カッコいい」ということになり、‘男性と傘’の関係が生まれます。これがついには、英国紳士のアクセサリーとしてなくてはならないものになったというわけです。

 
周囲の嘲笑のまなざしもなんのその。






それがだんだん「素敵な紳士」という評判に。



 

ファッションってそんなもんですよね。誰かが思い切って始めることから生まれるものではないでしうか?昔は5キロもあった重たい傘はJames Foxが発明したスチールの柄でかなり軽く持ちやすくなりました(今でもFox 社の傘はイギリスでは有名)。植民地からの安い材料で傘の値段もお手頃になってきます。使っていない時の当時の傘の持ち方は柄の真ん中を持ってハンドルを下に向けていたそうです。今ではハンドルを腕にかけて持ち歩いている人が多いですね。それもマナーに細かい人は、ハンドルを腕の内側からかけます。 そうすることによって、傘が濡れている場合は水が周りの人にではなく自分につくからだそうです。本能的に「自分が濡れないように」と外側からハンドルをかけていた私は非常に反省したのでありました。


尤も、今では折り畳みの傘のほうが一般的になってしまいましたが。でも今でもホテルに備えられている傘などはしっかりした昔ながらの傘ばかりです。






因みに、世界中の傘のほとんどを製造している国は? そうです。中国。ある町には1000もの傘製作所があるそうです。以前ナショナルギャラリーで買ったモネの「水連」の傘も中国製でした。

さて、先日地下鉄を出た時に意外なことに気が付きました。小雨が降っていたにもかわらず、皆傘をさしていません。そういう私も帽子をかぶっているだけ。そういえば前回傘を使ったのはいつだったでしょう?









「イギリス人と傘」というのが当たり前のイメージであったにもかかわらず、イギリスから傘が消えた? 以前はロンドン観光の仕事が多く、バスの乗り降りも頻繁でした。そのたびにお客様から「雨は降るでしょうか?」「傘を持っていったほうがいいでしょうか?」と質問を受けました。日本の方は雨に濡れるのがいやです。少しでもパラッと雨が降り出すとすぐに傘をさしていました。

イギリスの習慣が時と共に変わってきたのは何故でしょう?私の場合は単に傘を持ち歩くこと、傘をさすことがめんどうという理由からですが、これもファッションに関係あるのでしょうか?傘は流行遅れ?

イギリスから傘が消えてしまうことはなんとも淋しいことです。