8/05/2015

観光の途中でちょっと足を延ばして....

それは大昔の事。JALの機内誌にもなっていた雑誌‘英国’で私は「イギリスの小さな村」の連載を執筆していました。この国に住み始めた途端に田舎の小さな村の虜になってしまった私は、その連載のネタ探しのためにイングランドの村をあちこち回りました。そして初めてわかったことは、「私にとっての美しい村とはそこに単に古い建物が多く残っているとか、建物の調整が取れているとかだけでは意味が無く、そこに暮らす人たちの強いコミュニティ精神があってこそ、その村の魅力が理解できる。」ということでした。そして連載の内容も必然的に、単に場所だけではなくそこに暮らす人々に焦点を当てたものになってきました。

その連載で初めて取材した村はシアーという村で、村の婦人会のことを書きました。ご高齢にもかかわらず、しっかりした団結精神を持って村の存在のために活動しているご婦人たちの様子です。魅力的でした。皆さんが本当に輝いて見えました。私には初めての取材でもあり、その時のことはよく覚えています。そしてもうひとつ印象深かった村が、今回ご紹介するビデンデン(Biddenden)です。

先日、お客様をシシングハースト.カースルの庭、ライの町などにご案内した際に立ち寄ってとても懐かしく思いました。そしてあの時からちっとも変っていない町の雰囲気に小さな感動をおぼえました。ご一緒したお客様は母娘さんで、とても素敵なおふたりであったこともこの村にご案内した理由かもしれません。彼女たちだったらきっとこの村の美しさを感じていただけると思ったからです。








連載の取材で初めてビデンデンでお会いしたのが上の写真の奥にあるオールセインツ教会の(ほとんどの部分は1200年代に建てられた)牧師さんでした。たしかロジャーさんというお名前だったと記憶しています。ちょうど村祭りの準備をしているところでお忙しいにも拘わらずゆっくり時間をかけて取材に応じてくださったのを覚えています。お話から村祭りとは、教会を保存していくためには欠かせない行事であること、村祭りの他モーニングコーヒーなどを住民の家で行なって募金を募ることなどを知りました。

その頃ビデンデンでは村祭りの一環として「10ポンド基金」なるものを行っていました。まず村人に教会から10ポンドが手渡されます。あるご婦人はそれでフルーツと砂糖を買い、ジャムを作りました。それを村祭りで売れば10ポンドが15ポンドくらいになります。では牧師さんは何をしたかと言いますと、「私はジャム作りなどできませんから10ポンドでガソリンを買いました。ご承知のようにこの村には駅がありません。バスもたまにしか来ません。ですから村祭りに来て下さる方を隣町の駅までお迎えして村までお連れするのです。」えっ? タクシーの運転手さん? ちょっと待って。ライセンスは? 営業用の保険は? そこで考えました。牧師さんがライセンスを持っていないことはお客さんは当然承知のはず。お金を請求しないでドネーションとすれば法に触れないのかもしれません。


村の入り口に立つ看板には‘ビデンデンの乙女’と呼ばれるメアリー&エライザ.チャルクハーストが見えます。






彼女たちは1100年に生まれたとされていますが肩と腰がつながっていました。裕福であった彼女たちが34歳で亡くなった時には遺書によりビデンデン付近の5つの土地が教会に寄付されました。そして更に遺書により土地からの収益金はその後毎年イースター時に村の貧しい人にビール、チーズ、パンを支給することに使われ、この土地はその後「パンとチーズの土地」と呼ばれるようになりました。

このチャリテは長年の間に他のチャリティと合併しましたが伝統は守られていて、今でも毎年イースターにはお年寄り、未亡人に紅茶、チーズ、パンが贈られるとか。今では一般のひとも買えるそうです。


村を歩いているとステンドグラスや民家のブラインドにメアリーとエライザが....
 
 
 
 
 
ビデンデンといえば近くにあるビデンデンワイナリー(ワインの他には特にりんご酒が有名)は知られていますがワイナリーを訪れる際は是非村にも足を延ばしてください。パブ、ティーショップも人気です。そして歩道を歩く時は立ち止まって下の石を見てください。近くで採れた石を使っていますが貝の化石が沢山見られます。
 
ウィリアム.モリスの言葉にもあります。「....もし仮に人々が5分も歩けば田舎に行けるような、そして庭や緑に囲まれた小さなコミュニティで暮らし.....本当に自分にとって大切なものが何であるかを悟った時、その時にこそ、真の文明と言うものが始まったと言えるのではないだろうか。」

同じ気持ちを持った人たちとコミュニティ精神で自分たちの住んでいるところを守っていくこと......そんな田舎暮らしができたらどんなに素敵でしょう!