3/26/2016

キューガーデン王立植物園

私はガイド関係の4つの協会に属しています。それぞれが、比較的暇なシーズンオフの時期に、ミーティングや勉強会を企画してくれます。今年は風景庭園のデザイナーであったランセロット.ブラウン(ケイパビリティ.ブラウン)の誕生からちょうど300年の年で、先日は彼のレクチャーを聴きにいきました。さて今回は、英国公認日本語ガイド協会(JRTGA)主催のキューガーデンでのボタニカル.アートのレクチャーに行った時の事をお話します。キューガーデンといえばユネスコの世界遺産に登録されている最も大切な植物園のひとつです。

今回レクチャーを担当して下さった山中麻須美さんは、ご自身がキューガーデン専属のボタニカル.アーティストで通常一般公開されていない部屋、植物画、アーカイヴなどを見せてくださって参加者はため息ばかりついていました。山中麻須美さんにご案内していただいた図書館やアーカイヴにはとにかく全員が「素晴らしい!」の連発。世界一のレベルと言われるキューガーデンの凄さを実感しました。

キューガーデンがいわゆる‘通常のガーデン’と大きく違うところは、ここはあくまで植物園であって学術研究を目的とし、果は地球環境の維持、改善をゴールにしていることです。標本に関して言えば、例えば125万のキノコ類を含む800万に近いコレクションを持ち、それらは700名のスタッフのうちの170名のキューの植物学者のみならず世界中の学者の研究に使われています。もちろん規模は世界一。18世紀にイギリスから世界中に送られたプラントハンターたちが持ち帰ったものが基礎になっていますが中にはダーウィン、リヴィングストーンに関するものもあります。また20万枚の植物画の中にはすでに絶滅してしまったものも含まれ、大変貴重なコレクションであることは一目瞭然。

ボタニカル.アートとはあくまで植物学のためのアートですので、アートとしてはそれほど優れていない絵や、決して‘綺麗’とは言えない植物の絵もあるとか。つまりボタニカル.アートとは正確に言えばボタニカル.ペインティングやボタニカルイラストレーションとは完全に異なるものであることも学びました。ですから蕾から花になるまでの過程や、また方角を変えて絵に描いたりするので一枚の写真では表すことが不可能な花の生態を知る絵がキューではボタニカル.アートと呼ばれているのです。

75万冊におよぶライブラリーの蔵書のなかには、日本でも失われてしまった日本人の手による植物の本やシーボルトの「日本植物誌」(シーボルトがヨーロッパに持ち帰ったアジサイの絵を含む)など植物学者には感動の本や標本、絵画が納められています。一体どれくらいのコレクションなのか、正確な数は誰もわからないとのこと。まあ、とにかく沢山あるということにしておきましょう。

キューガーデンに関しては私も雑誌の取材やガイドとしてのご案内などで過去何回も訪れていますが、ボタニカル.アートに関して講義を聴いたのは初めてです。山中さんご自身がボタニカル.アーティストで、画集も出版されていることから先日のお話は実に貴重でした。私もこれからボタニカル.アートを鑑賞する時は、今までとはかなり違った角度から見るようになるでしょう。

この日、見せていただいたものは、一般には公開されていない標本や、本などですが、希望者は前もって手紙を書けば(何故見る必要があるのかの理由とともに。)見学が可能です。

さて、せっかく行ったのですから、‘この時期のキューガーデン’を写真でご紹介しますね。


駅からキューガーデンまでの住宅街はモクレンが綺麗でした。
 


 
 
キューガーデンの象徴でもあるパーム.ハウスは世界で最も大切な「鉄とガラス」のヴィクトリアン建築と言われヴィクトリア時代初期からイギリスに運ばれた南国植物を多く保管しています。
 
 
 
 
 
 
 
今、一番綺麗なのがGlory of the Snowと呼ばれる高山植物の青い花。原産地はトルコです。
 
 
 
 
 
 
 いつもガーガーとうるさいカナダ鴨も、この日はチューリップの中でポーズをとってくれました。
 
 
 

今年9月から来年の3月まで日本植物学資料や日本人アーティストの手になる植物画などの展示会‘Flora Japonica’がキューガーデンで開催されます。この展示はその後東京で開かれるそうですので、東京にお住いの方は是非行かれてみては?